音楽を愛するあなたへの手紙


ピアノの音は、弦の選び方で音質が明らかに違います。
日本では、鈴木弦とドイツのレスロー弦が入手できます。
鈴木弦は、いわゆるヤマハの音で、良く知られた音です。
レスロー弦は、スタインウェイやベーゼンドルファーで採用されており、
世界的にみれば、ポピュラーな音です。
鈴木の弦はやや太い音がし、反面 切れに欠けます。
レスロー弦は、細身で倍音が良く出ますが、良く云えばサワサワ、
悪く言えばシャリシャリします。
私としては、鈴木とレスローの中間が欲しいような気がします。
これは100%好みで分かれ、良し悪しとは関係ありません。

弦の張力は、時代背景を写すような面があります。
強い張力は、弦にエネルギーが蓄えられ、パワー感のある現代向きの
音になりますが、急激に減衰するなど潤いに欠けます。

弱い張力での設計のものは、サロンコンサートのように、
余韻を楽しみながらの演奏に向き、麗しく上品です。

ようするに弦は人間でいうと声帯で、新しい弦と古い弦でも大きく違い、
新しい弦は柔軟で伸びやかな音に対し、古い弦は
だんだん枯れた音に変化して行きます。

音楽にとって、これらはみんな必要な要素ですから、
複数台ピアノを使い分けるのが理想です。

次ぎはハンマーです。
声楽やアコーディオン、オルガンなどは、空気が次々と送りこまれ、
発音するべきエネルギーが常に供給されるのに対し、ハンマーは
弦が振動するきっかけを作るだけで、発音した音は減衰して行きます。
ピアノ音の一番の要がハンマーで、その役目を知らずして、
「整音」はできません。

先生・・・さて、ハンマーの役目は何でしょう。
   ・・・生徒・・・弦をたたいて音を出します。
先生・・・はい。正解です。しかし小学生の回答ですね。
     音を出す だけでしたら、小槌でもゴムでも骨でも皮でも石でも
     金属でも何でも音はでますね。
     何故フェルトを使ったハンマーを使うのでしょう。
   ・・・生徒 ΟΟΟーー・・・??ここで答えにつまってはいけません。
ハンマーで弦を打つと、ハンマーも弦も歪みます。
ひずみとは、変形することです。
変形した弦やハンマーは、元に戻る性質をもつています。
弦の歪みは長時間続き、ハンマーの歪みは
内圧により瞬時に戻ります。
つまり、ハンマーの歪みが素早く戻り、弦の倍音を消しているのです。
ハンマーとは音を消していたのですね。・・・何とも不思議。

これが分かれば、「整音」も見えてきます。
ハンマーは発音させるものですから、
まずこれを確保しなければなりません。
これには力の通り道を失わないことです。
力の通り道とは、指先から鍵盤へ移り、
アクションを経てハンマーウッドへと伝わってきます。
ハンマーヘッドは、弦の打弦点とハンマーウッドが一直線で結ばれ、
充分硬くなければなりません。
打弦点と結ぶハンマーフェルト部分が軟いと、
f の全く出ない不良品になります。

音を消す役目が、ハンマーの歪みにあると説明しましたが、
pp とff では、ハンマーの変形度合が異なります。
pp ではハンマーの先端だけが僅かに歪み,後ろへの影響は少しです。
ff ではハンマーの後方まで大きく歪み、上下対象形なことが理想です。

「整音」とはハンマーの歪み易さを加減する仕事で、
タイヤの空気圧を加減するのに似ています。
フォルテで音が硬い時は、ハンマーの外周 中央付近をほぐし、
ピアニッシモで音が硬い時は、力の通り道を阻害しないよう
先端まわりを注意深く ほぐします。

 音が硬いと書きましたが、別の調べ方もあります。

高音部などは、上駒に近い部分を叩いていますから、
当然パーカッション音(打撃音・衝撃音)という雑音が出ています。
パーカッション音を少なくすれば、楽音が増し、(高音が伸びて来て
快感なのですが・・・)
「コツコツ」という雑音を減らし、楽音7 雑音3を目安に作業すれば
概ね合格点でしょう。
簡単に書いていますが、何日も掛かる大変な仕事です。

「整音」は、音量のバランスも大切です。
音色の粒を揃えるのに気を取られ、音量バランスに
考えが及ばない技術者が多いのは残念なことです。

特に金額が高い大型ピアノに見られる現象ですが・・・、次高音の一番
音が出て欲しい部分の音が埋もれてしまう欠陥品が多くあります。
ハンマーをファイリングして、一回り小さくすると音は出るようになります。

「整音」には、ハンマーを削る「ファイリング」という作業があります。
もし、先端を斜めに削ってしまうと、削りすぎたハンマーは弦を叩く時に
時間的な遅れを生じます。(物理用語で「位相がずれる」と言います)
位相がずれると、偽者の波形が現れ、音を汚す原因になります。

また三本弦の左右で音色が異なる場合があり、
これも音を汚す原因となります。(物理用語で「混変調」を起こす)
必ず右や左にウェッジを刺し変え、左右の音色を同一にすることです。
更に、ソフトペダルを踏んだ状態でも、バラツキがないよう揃えます。
少し専門的になりましたが、仕事の一端をお知らせしたく、
あえて書きました。

最後に、音色を(A) 88鍵 均一に揃えるのも一つの方法ですが、
          (B) 音楽を考えれば別のアプローチもあります。
伴奏にあたる左手→和音で奏でるアルト音色をやや柔らかくしておくと、
メロディーとの対比が自然に出て、メロディーを強めに弾かずとも
音楽に沿った表現を得られますし・・・、
 また弱い音 ppは、ボリュームを絞ったような単に弱いのではなく、
「眠い」とか「羽毛布団のように柔らかい」という・・・力を内包しない
曲表現も多いものです。

pp の時、「極めて眠い」ような音を作るには、ハンマーの先端を強めに
針刺しをして柔らかくし、ff は やや針刺しを控え「固めの音」を残して
おくと、クレッシェンドなどの時、音色にもダイナミック感を与えられます。

機械的に技術者が揃えた(A)の均一的な音色では・・・、
音楽から見た(B)の表現は、用意されていないので当然出せません。

(A) の方法や、(B) の方法の、どちらが正解かとは言い切れませんが、
(B)の方法は・・・殆ど為されていないので、紹介して置きます。

鍵盤・アクション・ハンマーの働きは、押し下げた約10oの五倍に増幅し、
これには、音楽のニュアンスを作る大切な 「整調」という作業があります。
「整音」前に、鍵盤・アクション・ペダルを整える 「整調」・・・が先ですから、
ここでは「整調」について書いていませんが、是非 整備をしてください。

リサイタルなどの でき 不出来は、「整調」が50%を握っていると
言っても過言ではありません。
F1レースの整備失敗が、レーサーの技量ではカバーしきれないのと
同じで、自身の努力では解決できないから厄介です。

幸運がゆるせば、パートナーを組める、腕の良い調律師を
引き込むことです。
しかし、それは分かっていても、調律師に払う費用が
心配ではありませんか。
そこは出世払いということで、当面は好意に すがるしかありません。